京極堂シリーズ読み終わった

読み終わったと言ってもまだ出てないのもあるし、長編しか読んでないけど感想をまとめておく。
ちなみにこのシリーズは古本屋の京極堂が事件を憑き物落としで解決する話で、ミステリーというにはルール違反が多いのでどちらかというとアンチミステリー。

今現在出てる長編はこんだけ。
このうち姑獲鳥の夏は何年か前に読んだきりあんまり覚えてないので昔の感想のリンクだけ
http://d.hatena.ne.jp/sumi_wakhok/20070816/p7
魍魎の匣は映画(実写)も観に行ってるのでそっちのリンク。
http://d.hatena.ne.jp/sumi_wakhok/20071222/p2
で、姑獲鳥の夏を読んで魍魎の匣を観てからだいぶ経って久々に読んでみようと思ってその続き、と思って鉄鼠の檻を読み始めたんだけど間に狂骨の夢があったのに気づいてなかったから読む順序がおかしくなってる。一応つながりも無くはないけど時間軸が入れ違ってもあんまり問題は無かったので気にしない。


まず4作目の『鉄鼠の檻
姑獲鳥の夏はずるいトリックを使っていて読む人によっては怒るんじゃないかと思うんだけど、鉄鼠の檻はその点とても真面目だった。何でもありだった魍魎の匣とは真逆。
山奥の禅寺とその山の入り口の宿で起きる連続殺人事件に巻き込まれるいつもの面々。と言っても前作、前々作の記憶はあんまりないので去年の事件の話が出てきてもよく分からない。まぁそれがストーリーにつながるわけではなかったので問題なかった。読んでいれば登場人物の人となりが良く分かるというだけのこと。全部読んでいる人にはそれが楽しい。
禅の世界についての話にかなりページがさかれているけど、無門関とか多少読んでたから割とすんなり入り込めた。
舞台が宿と寺だけなので場所も容疑者も狭い範囲を行ったり来たりするような、そんな感覚がしてくる。
謎解きは京極堂だけが知っている事実に基づいてはいるんだけど、どちらかというとそれは仏教とお寺の知識なのであんまりずるいとは思わなかった。犯人を予想しながら読んでいたけどそんなに予想外な犯人では無いな、怪しかったわけでもないけど、まぁ登場人物が限られてるから禅寺の関係者の誰かだろうと予想すればその中に入ってしまうんだけどね。ここは素直に怪しく書かれた人を怪しく思い、疑いが晴れたら次の人を疑うという具合に流されながら読んでいったほうが楽しめるんじゃないだろうか。今考えるとあの人が犯人だと思える理由は最後まで出てきてなかった気もするし。
久々に読んだ京極堂シリーズなのでこの時はこれで十分面白いと思った。でも他のを読んだ後だとこれは重すぎるんだよな。物理的にも内容的にも。


次は3作目の『狂骨の夢
自分の夫を何度も殺したと言う朱美を中心に、キリスト教フロイト主義、神道などのいろんな方面の人々が交錯して綺麗に一つにまとまる話。
面白さという点ではこれが一番だった。とても分かりやすい面白さ。序盤が陰鬱だった割には最後の憑き物落としは実に軽快で、物理的にも軽かったせいもあって読んでて楽しかった気がする。でも最初のほうはやっぱり重かったかな。
謎はこれまた京極堂だけが知っている事実で解けるんだけど、今作は特にたまたま知っていた事実ではなく、神社仏閣の知識だけで解いたようなものなのですごくスッキリする。あんな伝説まで出てくるとはねぇ。まぁそれが事実だったという話ではなく、それを信じる人たちがやった話なんだけどね。


次は2作目の『魍魎の匣
映画で観てるからいいかなとも思ったんだけど、この厚さだから映画にすべて詰め込んであるはずはないし、このシリーズも面白くなってきたから読んでみた。読む順番が1-4-3-2とバラバラになってしまったな。
美少女連続バラバラ殺人と魍魎を匣に封じる新興宗教、匣のような建物の謎の研究施設というバラバラな要素が繋がりあって偶然から必然を必然から偶然を産んで一つの大きな物語になっている。
今作は刑事の木場が重要な役まわりになっているけど、もちろん他の面々もみんな出てくる。事件もいろいろだから一番バラエティに富んだ顔ぶれだったかも知れない。ここまで4作読んでやっとこのシリーズが京極堂の仲間たちがどのように事件にからむのかを楽しむシリーズだということが分かってきた。みんなそれぞれの理由やきっかけで一つの(バラバラの時もあるけど)事件に関わってくるのだ。
今作の憑き物落としは2回行われるんだけど、一方は宗教や古典を元にした知識で謎解きするのでスッキリするものの、もう一方は京極堂の個人的な過去に頼っているのでこれはいただけない。とはいえ、このシリーズを読み進めていくといつもの面々が次々と事件に巻き込まれていく大きな物語になっていくので、主人公達の過去がその事件に関わってきたとしても全然問題なくなってくる。でも2作目でこれだとそんなこと分からないからね。
ちなみに映画のほうはストーリ的には割と忠実なのであらすじを知るには十分すぎるほど。細かい違いはそんなに重要じゃなかった。でも原作で一番関心した、関口が書いた小説の載った雑誌をある人が読んでいたことを元にした推理は映画には確か無かったな。


次は5作目、『絡新婦の理』
この辺りからちょっと楽しみが半減してく。
今までの事件はいつもの主人公達が偶然関わったそれぞれの事件がからみ合って物語を作っていったけど、今作では裏で糸をひいている人物がいるのだ。せっかく偶然が楽しかったのに必然になったとたん面白く無くなってしまったということを考えるとやはりこのシリーズはミステリーでは無かったということなんだな。
ストーリーはいろんな事件が蜘蛛の巣のように交差してるので説明が面倒臭い。要点だけ言うと織作家の姉妹の誰かが犯人だってことが冒頭にあるエピローグ(冒頭だけどプロローグじゃない)で分かるので、姉妹の誰が犯人なのかということを考えながら事件同士がどう結びついていくのかを楽しむ作品になってる。
今回はユダヤ教の話がちょっとできたりはするけど、宗教や妖怪の話は少なめ。事件が多いから一つ一つの謎解きがちょっと薄いかも。
偶然が気に入らない人には今作はおすすめ出来るかも知れない。


6作目、『塗仏の宴 宴の支度』/『塗仏の宴 宴の始末』
2冊に分かれていて、前半で事件が広がって後半で収束する。
5作目以外の作品ではいつも主人公的な位置にいた作家の関口が逮捕されてしまったり、前作の関係者や狂骨の夢の関係者までが登場して主人公たちも一緒にどんどん巻き込まれていく。今作も偶然は少ないんだけど、登場する人物の多さと意外性からなかなか楽しめた。
一番面白かったのはのっぺらぼうのルーツを探す話で、普通に妖怪についての読み物として面白い。どこまでが創作なのかは分からないけど説得力がある話だ。
前半はこういう妖怪をモチーフにした事件が妖怪のルーツの話と共に順に語られていって、後半ではそれらの事件の関係者が一同に介して憑き物落とし。
黒幕がいるので偶然を楽しめる話ではないものの、妖怪の話が純粋に面白いし、黒幕が今後再び登場したときに何が起きるのかは楽しみだ。まぁこれっきりかもしれないけど。
前作もそうだったけど、探偵の榎木津が出てくるとなんだか安心する。いつもここぞというところで出てきて活躍するか、あるいは余計なところで余計なことを言って混乱させる。


7作目『陰摩羅鬼の瑕
前作までとうってかわって狭い舞台で登場人物も少ないこの作品は結婚式のたびに妻が死ぬ伯爵の話。関口が主な語りになっていて、陰摩羅鬼が鳥であることからも姑獲鳥の夏と対になっていることが分かる。
姑獲鳥の夏が見えるとか見えないとかが問題になっていたように、今作でもある認識が問題になる。
まぁ序盤からそのことを匂わせていなくもないんだけどなにせ証拠はないからそんなありそうに無いことは読んでて信じられない。そこを信じさせてくれるような憑き物落としが最後に待っている。
榎木津も重要な役を担っている。この人がいると大事なことを隠して伏線が張れるから書くほうも楽だし読むほうも期待が膨らむよな。
厚いわりにはこじんまりした話だけど、原点に戻ったといえば戻ったのかも知れない。といっても姑獲鳥の夏は長いこと読んでないからあんまり覚えてないんだけどね。


今のところ最新作の8作目『邪魅の雫
といっても出たのは何年も前か。
メインは京極堂の仲間たちではなく、木場の部下の青木だったり、榎木津の助手で元刑事の益田だったり、今まで出てきた端役の刑事たちもたくさんでてきて普通に連続殺人事件を捜査していくので少々退屈かもしれない。事件は普通じゃないんだけどね。
一応関口は益田と一緒だし、京極堂も時々出てくるし憑き物落としもするけど、なんだか普通の刑事小説をもっと複雑にしたような感じで禍々しさが足りない。
黒幕的な人物がいたりしてやっぱり偶然が足りないし、普通の人ばかりなので人物の魅力を楽しむにも物足りない。
何より宗教的な要素とか妖怪の話が足りないことが問題なのかも知れないな。邪魅の説明ほとんどなくて関口が説明できる程度の話だけ。
それでも今後今作の人物が面白い形で別の事件に関わってくることがあるのなら、今作もいい布石にはなるんだろう。
今作に関してはあんまり良く言わなかったけどそれでも普通の堅苦しい推理小説よりは面白いので読んで損はないよ。


久しぶりに姑獲鳥の夏も読みたくなったけど実家に置いてきたから当分読めないな。