夢野久作

ここ数カ月の間、何年か前にまとめて落とした夢野久作を通勤中に読んでいた。たぶん青空文庫に上がっているものの3分の2は読んだだろう。
それ以前にドグラ・マグラは読んでいたのでああいう作品を書いているもんだと思ってたけど、実際いろいろ読んでみるとドグラ・マグラっぽい作品は一つもない。人間腸詰や二重心臓のようなおどろおどろしいタイトルのものはあるけど中身はどれも田舎の人や素朴な人が冒険談を語っているようなものばかり。かと思えば童話があったり、震災後の東京の堕落を書いたものがどういうわけか二本もあったり、スパイものも多い。偉人伝のようなものがあったと思ったらその一人は夢野久作の父親(右翼の大物)だったりした。
そういえばドグラ・マグラが狂人の書いた探偵小説と言われている(中に書かれてる)けど、あれがどうして探偵小説なのかが他のいろんな作品を読んで分かってきた。これらが書かれた時代の探偵小説というのは、じつは探偵が推理する話だけではなく、猟奇的な話などのエログロナンセンス全般が含まれているようなのだ。いや、この時代ではなく夢野久作がそう思っていただけかも知れない。
探偵小説がそのようなもののことを言っていたんだとすると、そんな時代なら探偵小説なんて読んでいたらろくな人間にならないと思われてもしょうがないだろう。そこまで言われることはないにしろ、それが今ではミステリーと名を変えて揺り椅子でコーヒー片手に読む格調高いものに変わっている。火曜サスペンスの類を除けば。
最近でも呼び名を変えただけですっかり印象の変わってしまったものがあるな。かつてはお菓子ばかり食べていると太るとか、夕飯が食べられなくなるとか、虫歯になるとか言われていたけど、今じゃ自分へのごほうびだったりするもんな、スウィーツって。